ボート釣りで使うアンカーロープについて紹介します。
ロープと言っても、太さ、材質、形状(撚り方)の違いでさまざまな物が販売されていますが、船のアンカー用ロープには、向いている物、向いていない物が存在します。
最適なロープを使う事で、正確に、楽に、安全にアンカリング出来ます。
今回の記事では、ロープの種類の比較と最適なアンカーロープについて紹介します。
アンカーロープの材質
ロープの材質、そのロープに使われている原料ですが、アンカーロープに限定して言うと、合成樹脂の物が使われています。麻や綿などの天然素材では、海水に浸けて使うとすぐに腐ってしまいます。
市販されている合成樹脂のロープとして一般的な物は以下の物があります。
- ポリエステル(テトロン)
- クレモナS(ポリエステル&ビニロン)
- ポリプロピレン(PP)
- ポリエチレン(PE)
- ポリエチレン&ポリエステル(KP)
- ナイロン
合成樹脂と言っても様々な素材があるので、ロープも様々な素材で作られています。もちろんそれぞれ特性も違っているので、アンカーロープとして使うなら、適したものを選択する必要があります。
ロープの比重
アンカーロープとして重要な特性の一つがロープの比重、重さです。これは海水中で沈むか、浮くかと言う事で、アンカー用では沈むロープを使います。
以前の記事にも書きましたが、アンカーをしっかりと効かせるためには、なるべく海底と平行に引く必要があります。海水に浮いてしまう素材ではアンカーを海底から引き剥がす力が加わってしまうため、アンカーロープとしては不向きです。
比重の高い(海水に沈む)ロープの素材としては以下の物があります。
素材 | 比重 |
海水 | 1.02 |
ポリエステル(テトロン) | 1.38 |
クレモナS | 1.34 |
ナイロン | 1.14 |
海水の比重は1.02程度なので、この中ならどれでも沈みますが、ナイロンロープは他のロープより比重の小さめの素材です。
強度はナイロンロープの方が優れているのですが、アンカーをしっかり効かすためには、なるべく比重の高い、ロープが適しています。
ロープの耐水性
そしてもう一つアンカーロープとして大事な事が、ロープの扱いやすさです。
後で紹介する「ロープの撚り方」でも変わってくるのですが、素材自体の特性として、水に濡れたり乾燥したりを繰り返すと繊維が縮んで固くなってしまう素材があります。
水深にもよりますが、海底と船を繋ぐためにはとても長いロープが必要です。僕は水深60mの所でアンカーを打つために150mのロープを準備していますが、扱い難いカチカチに硬くなったロープを使って、もし絡んだ場合狭い船内で解くのはほぼ不可能でしょう。
滅多に絡まる事は無いとは思いますが、硬いロープが使いにくいのは事実です。船のロープロッカーやカゴに入れていくのも、しなやかなロープの方が収まりがいいです。
そこで、先ほどの比重の高い海水に沈むロープで、濡れても硬くならないロープの素材としては、ポリエステル(テトロン)となります。
ちなみに、テトロンとは、東レ、テイジンの商標で、ポリエステルと同じ素材です。
クレモナSも、ビニロンと言う素材に硬くならないようポリエステルを混ぜて作られたロープのようですが、僕が何度か使ってみたところカッチカチとまではいきませんが、普通に使いにくいと感じるくらい硬くなってしまいました。
なので、アンカーロープの素材としてはポリエステルがおすすめです。
スパンエステルロープ、マルチフィラメントロープ
アンカーロープの素材としては、ポリエステルが優れているのですが、ポリエステルでは、繊維の取り方で2種類のロープが存在します。
スパンエステルロープとマルチフィラメントロープです。
スパンエステルロープは、ポリエステルの繊維を短く切ったものを撚り合わせて作ったもので、綿のロープの様な表面が毛羽立ったやわらかい肌触りで、濡れた手でも滑りにくく、扱いやすのが特徴です。
もう一方のマルチフィラメントロープは、繊維を短く切らず長いまま撚り合わせたもので、表面がツルっとしています。滑りにくさではスパンエステルですが、海底の泥やクラゲ等の汚れが絡みにくいのはマルチフィラメントの方です。強度的にもマルチフィラメントの方が優れています。
僕が思う選択の基準としては、アンカーを回収する時にボートにアンカーマンやアンカーリールなどの装備があるなら、強度が高く汚れが落ちやすいマルチフィラメントロープ、手動やウインドラスなど手で扱う必要があるなら滑りにくく力の入れやすいスパンエステルロープを選ぶのがいいのではないでしょうか。
アンカーロープの撚り方
ロープの構造は、「ヤーン」という繊維を束ねた細い糸を、「ストランド」と言う紐状に仕上げ、さらにそれを何本か撚り合わせて作られています。
©日本財団図書館
上の画像では3本のストランドを撚り合わせているため、3つ打ちロープと言いい、最も一般的なロープの打ち方です。組み合わせるストランドの本数によってもロープの特性が変わってきます。
打ち方の種類として一般に流通している物は下記の様な物があります。
・3つ打ち
・8つ打ち(クロス打ち)
・12打ち(金剛打ち)
・16打ち(ブレード打ち)
・32打ち(ダブルブレード打ち)
下に行くほど複雑な打ち方(編み方)をしているため値段も高くなっていきますが、ロープの表面が滑らかになり、同じ素材でも柔らかく扱いやすくなります。
3つ打ちは、最も安価な打ち方ですが一方向に撚っているだけ(編んでいない)ので「キンク」と呼ばれるロープの型崩れが起こる場合があります。
©JMRA
12打ち(金剛打ち)より下の打ち方については、中心の繊維束の周囲を編み込んだ繊維で覆う2重構造になっています。
強度については、2重構造になっていない3つ打ち、8つ打ち(クロス打ち)が強く、金剛打ちでは、少し低下します。
アンカーロープとして使う場合は、大型船でない限りそこまで絶対的な強度は必要ないと思うので、予算が許すならば打ち数の多い方が滑らかで使いやすくはなります。
ただ、ロープの末端に輪を作る編み込み加工(アイ・スプライス)等を自分で行う場合は、3つ打ちか8つ打ちのロープじゃないと加工できません。
© Club HM Anchor Monitor
編み込み(スプライス)加工は、アンカーやアンカーチェーンとロープを繋げたり、ロープを継ぎ足して使う場合にも結び目を作らずに行えるのでおすすめです。アンカーが海底の岩に挟まり取れなくなり、ロープを切断するのはよくある事です。
上記の様な理由から、アンカーロープに最適な打ち方として8つ打ち(クロス打ち)ロープをおすすめします。また8つ打ちロープは他の物より伸びがあるので、瞬間的なショックを吸収して、アンカーが外れてしまう事(走錨)を防ぐ効果もあります。
ただ、現在僕は3つ打ちを使っていますが、アンカーロープとして使う分にはロープの型崩れ(キンク)は一度も発生したことはありません。編み込み加工を簡単にしたいなら、価格も安い3つ打ちロープもいいでしょう。
アンカーロープの太さ
最後にロープの太さですが、基本的には強度を基準に選びます。
ロープの材質やメーカーによっても変わってきますが、直径に対する引っ張り強度の一例としては以下のようになっています。
・ポリエステル 3つ打ロープ
ロープ直径 | 強度 スパン(Kg) | 強度 マルチ(Kg) |
4 | 160 | |
5 | 250 | |
6 | 360 | 560 |
8 | 610 | 960 |
10 | 1040 | 1590 |
12 | 1490 | 2240 |
16 | 2550 | 3820 |
20 | 3870 | 5790 |
24 | 5430 | 8120 |
30 | 8230 |
アンカーロープとして使う場合、一番力が加わる場面は、アンカーを効かせて停泊している時ではなく、回収時になります。
特に海底の岩等に引っ掛かったアンカーを無理やり引き上げる時が最も荷重がかかると思うので、そこを基準に選びます。
もちろん船の大きさにもよりますが、2馬力ミニボートや20ft台のボートでは太さ30mm(強度8230kg)のロープでは、完全にオーバースペックと言うのがわかります。8トンの力でアンカーを引っ張っても船の方が沈没してしまいます。
ボートの大きさによるロープを引っ張れる力の目安としては、小さなミニボートでは50kg程度、20ft台前半で100から200kg程度、20ft台後半以降でも200から300kg程度が限界だと思います。これより大きな船では船体の浮力自体は大きいですが、それ以前にクリートなど、ロープを結びつける所が壊れてしまうと思います。
なのでこのくらいの強度がある太さ選べばいいのですが、アンカーロープは使っていくうちに結構ボロボロになっていきます。特に岩礁地帯でアンカーチェーンを付けずに使うと、岩でロープが擦れてかなり傷つくので、そこも考慮しないといけません。
長さ100mや200mロープを買うと数千円から数万円掛かってしまうので、ちょっと傷が付いただけで買い換えることは現実的ではありません。なので強度ギリギリのロープではなく、安全率も考えて5倍以上、出来れば10倍程度の強度を持った太さがおすすめです。
ただしゴムボート等の小さなミニボートでは、強度は必要ありませんが、手でアンカーを上げなければいけません。4mm等のロープでは全く力が入らず、手に食い込むため痛いです。
強度は必要無いとしても、最低6mm、出来れば8mm無いとアンカーロープとしては使いにくいと思います。
以上の様な感じで、ミニボート等10ft程度なら6mm、スペースに余裕があれば8mm。
20ft台前半までなら10mm〜14mm。
20ft後半では12mmから16mm。
これくらいの太さを目安に購入すれば失敗する事はないでしょう。
ただし、釣りのラインでもそうですが、細ければ細いほど潮流の影響を受けにくく狙った位置に停めやすくなるので、強度的な部分を満たしながらも、出来るだけ細いロープを使った方が正確なアンカリングができます。
アンカーロープの種類まとめ
この記事を書くにあたって、ロープについて調べてみましたが、材質、形状、太さと、一言でロープと言っても無数の種類がありました。
昔、僕がゴムボートで、黄色と黒のポリエチレンのロープ、通称「トラロープ」をアンカーロープとして使っていましたが、ツルツル滑り、腰が強くてカゴに入らず、とても使いにくかったのを覚えています。
タダでさえ重労働のアンカー上げ作業を楽にするには、適切な物を選ぶことが大切です。
今回の記事の内容をまとめると、アンカーロープに最適な物は、
- 素材は、硬くならず比重の大きいポリエステル
- 編み込み加工するなら3つ打ちか8つ打ち
- ロープの太さはミニボートは6~8mm
- 20ft台前半は10~14mm
- 20ft後半なら12mm~16mm
このような感じになります。
ただし、上記の太さについては、命を預けれる安全な太さと言う事ではなく、あくまで釣りのためのアンカリングしやすい実用的な太さと言う事なので、そこは理解しておいてください。
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